田口和裕、堀越英美他「ウェブログ入門−BloggerとMovable Typeではじめる」(翔泳社)


 帯コメントを書いた関係で献本いただいた。これは出版社全般にお願いしたいことなのだが、宅急便の荷札に「yomoyomo」という表記を入れるのはどうかご遠慮いただきたい。心臓が止まるかと思った。

 いろんな人達が帯コメントを寄せているが、考えてみれば川崎和哉など、rockin' on に公園で猫が穴を掘るのを昼間っからぼんやり眺めているとか、オリーブ少女になりたいとか、モリッシーとはジョニー・マーの不在であるとかいう文章を書き、当時編集長だった増井修から「このフニャモラ野郎! 自衛隊に入って根性叩き直せや!」とどやされていたのをワタシはリアルタイムで読んでいたわけである。そうした人と並んで帯コメントを書くことになろうとは何とも不思議な気持ちである。ただ、それを光栄に思うといった感情は微塵もないことを明記しておく。

 余計なことを書いてしまったが、本書の帯コメントを引き受けたいと思ったのは、依頼メールに本書の企画書が添付されており、それを読んでかっちりとした構成に唸り、是非先に書籍の内容を読んでみたいと思ったのがある。さらに書けば、何より堀越英美さんによるウェブログ史を読みたかった。彼女の書く文章は、『ウェブログ・ハンドブック』を翻訳している当方にとって脅威であるからだ。

 それを読んだ感想は後ほど書くとして、まず本書全体の評価をしておくと、最初企画書を読んだときに想像した通り、最適な執筆陣による実践的な入門書だと思った。つまりは帯コメントに書いた通りなのだが、章タイトルを見るだけでそれを誰が書いたか予想が付く、つまり書くべき人間が書いている本というのは良い。内容的にも網羅的で、分かりやすくポイントを抑えたものになっていると思う。総花的だと思う人もいるだろうし、特定項目について深い内容を求めると肩透かしを食うかもしれない。HTML や CSS の解説の割り切り方にはちょっとなあと思うのも確かだが、対象読者層を考えればこれで十分なのだろう。チンコパッドがどうしたとかいうまえがきがなければなお良かった。

 あとこれはワタシが無知なだけかもしれんが、日本において RSS 周りについて、ちゃんと章を設けて記述されている書籍は初めてではないか? セマンティックウェブなんかが掛け声倒れになりそうなのに対し、ツールとしての自動化に RSS 周りを取りこんだことで(Dave Winer 以外のツール作者はどの程度自覚的だったのかな)、パーソナルウェブサービスとしての役割を果たすところまで来たところに舶来ツールの新しさがあったのだから、ばるぼらさん執筆の二つの章は、そうした意味で貴重だ。

 一方で sawadaspecial さんによる「大手人気サイトへの道」は薄いというか、あっさりし過ぎているようにも思えたが、逆にいえば人気サイトといえどもサイト運営なんてエキサイティングなものではないということなのかもしれない。

 「今更ホームページの作り方の本も…」という意見もあるが、常に一定の需要はあると思うし、本書はそれをウェブログという切り口で「新規客」に加え、新たにサイトをリビルドしたいと人達も取りこめるだけの開口を持った本足り得ていると思う。そうした意味で本書の商業的な成功は、編集者である mohri さんの企画力の的確さがあっただろうし、更には堀越英美さんが「編集者」として果たした役割も大きいものと推察する。

 さて、ワタシ自身最も楽しみであり、一方で読むのが恐くもあった堀越さんの『ブログの歴史』である。はじめにそれが『ウェブログ事始め』に加筆・修正したものとの記述があるが、むしろ内容的には『ウェブログに見る日米個人サイトコミュニティ事情』に近く、つまりは彼女によるウェブログ文章の総集編と言えるだろう。

 『ブログの歴史』を先に読ませてもらったときは、書き下ろしの文章でなかったというのはともかくとして、今回加筆されたブログ騒動周りの記述あたりに正直不満を持った。

 しかし、今回書籍の形で読んでみると印象が違った。書籍版と以前いただいたファイルを読み比べて原因が分かったのだが、ファイル版で癪に障った個所が書き換わっていた。ただその部分である「それまで日本の個人サイトコミュニティは細分化して発展し、ある1つのトピックについてコミュニティを横断して意見が交わされることはあまりなかった」にしても、その数ページ前に個人サイトの情報伝播の実例として「ゲーム脳の恐怖」関係の話(これはブログ騒動より前の話だ)を出していることを考えると、論旨の展開的にやはり疑問に思う。これは『ウェブログに見る日米個人サイトコミュニティ事情』を読んだときにも少し感じたことだが、どうも日本の個人サイト全般に対する評価が低いように読めるきらいがあるのだ。

 ただこれはワタシのような人間が感じる不満であって、本書が主にターゲットにする層からすればどうでも良い話である。そうした意味で本書全体の評価は変わらない。

 あと『ブログの歴史』には、「静岡大学の赤尾教授」という記述があるが、氏のサイトには「静岡大学情報学部教員・赤尾晃一」と書いてあるから、これは間違いだろう。もちろん氏の趣味を鮒寿司作りと書くのも間違いだ。

 最後に一点本書に苦言を呈しておくと、付録の CD-ROM はいらなかったのではないか。これは微妙なところで、情報が一箇所(この場合書籍一式)に揃っていることが本書の強みならば、MT日本語化パッチなどを収録する意味は未だ大いにある(本書のターゲットである初心者層には特に)。が、これはたとえだが、どうせならMTに日本語化パッチをあてた状態でCD-ROMに収録するぐらいでないといけないでしょう。本書の副題に名前が出ているウェブログツール本体が収録できなくなった時点で、付録 CD-ROM をなくすべきではなかったか。


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初出公開: 2003年07月28日、 最終更新日: 2003年07月29日
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