今はこれが精一杯


 先週の金曜日の夜、日本テレビの金曜ロードショーで「ルパン三世 カリオストロの城」が放映された。その頃僕は友達と飲んでいたのだが、予め140分テープを買っておいて、しっかり録画させてもらった。

 この映画は、僕が小学生の頃から定期的に金曜ロードショーで放送されてきていて、その放映回数が五回を下回ることはない。そして、僕は物心ついてから、それを見逃したことは一度もない。要は僕はこの映画を軽く十回以上は観てきたことになる。大学生のとき、この映画について友人と熱く語り合ったこともある。そして、何度観ても、飽きないのだ。

 これは本当に不思議なことである。子どもの頃心躍らせて楽しんだものが、大人になっても鑑賞に堪えられるという保証は、当たり前だがない。例えば、僕個人の体験で言えば、小学生低学年のとき劇場公開されたスピルバーグの「E.T.」、一度観た後、親に金だけねだって一人で二度目を観に行った。いくら近所の映画館だとはいえ、まだ小学校一二年だった自分が一人でよく映画館に行ったものだと思う。それだけ思い入れのあった映画なのだが、高校のときテレビ放映されたので観てみると、自分でも憐れになるくらい何のひっかかりも感じなかった。

 「E.T.」の極私的な落差は極端だとしても、同じようなことは誰もが多かれ少なかれ体験したことがあるはずだ。個人的には、今「オレたちひょうきん族」を見ると同じようなことになるのではないかと密かに恐れているのだが、それはともかく「カリオストロの城」に対する評価の変わらなさは驚くべきことだ。


 結論から言えば、この映画自体が元からガキ向けに作られたものでないということになるのだろう。

 冒頭のカーチェース、宮崎アニメの一つの定番である飛翔とルパンのキャラクター性が見事にスパークした塔渡りの場面、ルパンがクラリスに一輪の花を出す場面、そしてラストの銭形のあの有名で素敵な台詞など、この映画はその隅々まで、映画としての魔法が満ちている。スクリーンの中で、ルパン、次元、五右衛門、富士子、そして銭形といったおなじみのキャラクターが命を吹き込まれ、素晴らしい活躍をみせている。

 キューブリックの「2001年 宇宙の旅」やフェリーニの「道」のような映画史に残る傑作というのではない。しかし、いつまでも心に残り、たまに観直す度に楽しさを味わえる好作というのがある。僕にとってそれはテリー・ギリアムの「フィッシャー・キング」であったり、監督名を失念してしまったがデ・ニーロ主演の「ミッドナイト・ラン」であったりするのだが、「ルパン三世 カリオストロの城」は、そうした中でも、映画としての品位とすがすがしさが備わった最高の部類に入るものだ。

 今年この映画がDVD化された。予定より発売が延期され云々といったあたりまでニュースになっているのを見て、僕と同じように思っている人が多いのかな、と何だか嬉しくなったものだ。でも、DVDにもなった映画をわざわざ録画するというのもアレだな。早くDVDプレイヤーを買えばよいのだが。ううむ…


 この作品の監督は、言わずと知れた宮崎駿で、この作品が彼の劇場監督第一作である。

 僕が小学生のときにこの映画を観た時には当然宮崎駿の名前など知らず、単純にルパンの映画として楽しんだわけだが、後に公開される宮崎アニメとともに、「カリオストロの城」が彼の作品であることを知り、驚いたわけである。

 宮崎駿がこれだけ巨大な存在となれば、その作品の評価も人それぞれだと思うが、一番人気があるのは「となりのトトロ」あたりだろうか。一番彼らしい要素が揃っている作品となるとやはり「天空の城ラピュタ」あたりだろう。僕自身これが彼の最高作だと思う(まあ、何をどう間違っても「もののけ姫」じゃないでしょう)。彼の劇場公開作はすべて観ている当方であるが、その多くはテレビで観たものであるし、「アニメージュ」もろくに読んだことのない程度の人間であるので、詳しい評論をやるのに適した人間ではない。そうした文章は他の人に譲りたいし、僕がわざわざ譲らなくてもいろんな人がやってますが。

 まあ、そんな僕が書くことだから大した意味はないが、彼の素晴らしいフィルムワークを辿ってみても、僕の中で最も愛着があるのは「カリオストロの城」だったりするのだ、未だに。


 だから、宮崎駿自身がこの作品にどういう評価を持っているか、ということには興味があった。20年以上前の公開作なので、技術的な面では現在にはまったく及ばないし、ジブリとしての独自性を発揮した作品でもない。監督の評価と作品自体の価値が別なのは分かっているが、宮崎駿自身がこれを黙殺していたら嫌だなあ、と思っていた。

 この十年ようやくアニメのクリエーターにも脚光があたるようになり、一般誌でも宮崎駿や押井守などの発言を読むことができるようになったが、確か CUT での渋谷陽一のインタビューだったと記憶するが、宮崎駿が「カリオストロの城」のことを好意的に語っていて、何か胸のつかえがとれたような幸福感を感じたものだ。

 その一方で、僕は以前から持っていた、宮崎駿に「カリオストロの城」の続編を撮ってもらいたい、という願望を思い出していた。

 それは中学生のときに、「風と谷のナウシカ」の監督が「カリオストロの城」の監督でもあることを知って以来思っていたことであるが、そんなことを考えるのは僕だけだろうか。

 僕の願いなんかとは関係なしに(当たり前)、宮崎駿は数々の名作をものにし、そういうことを言い出せるレベルでなくなってしまった。それは素晴らしいことだ。

 ただ一方で、未だに思うのだ。彼がそれこそ国民栄誉賞レベルの存在にならず、「カリオストロの城」の続編を撮っていたとしたら、それはどんな作品になっただろうか、と。個人的には、まもなく公開される「千と千尋の神隠し」には特に何の期待もしていないのであるが、一方でそんな愚にもつかないことを想像したりするのだ。


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初出公開: 2001年06月25日、 最終更新日: 2001年06月27日
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