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blur ジャケット

 「Park Life」(1994)のハイパー感は未だに捨て難い魅力を持っているので、そちらにしようかと迷ったが、その作品世界が彼らにとって完全に過去のものとなったことを知った後になってはやはり本作(正確には無題、だったっけ)だろうか。

 このアルバムを聴く前、はっきり言ってとても不安だった。「Great Escape」後の反動としての凄まじく盛り下がった周辺(バンド内も)の空気、対オアシスのセールス的な完璧な敗北、そして暗く内省的だという事前情報を前にしたら仕方ないだろう。しかし、活気のないただ陰惨な作品だったらどうしよう、という当方の心配は音を聴いてふっとばされた。


 確かに暗い。音も歌詞も内省的でもある。しかし、実際にこのアルバムをよく聞くと、自分達のフォーミュラを一度解体しただけでなく、更にそれをビルドアップした音がある。以前からのファンが聞いても何ら矛盾はないのだ。変化であるが、変節ではない。

 何より音に自由さがあり、「Great Escape」のような聞き手をいつのまにか閉塞させる息苦しさがない。色々な呪縛が解けたのだと思う。「ポップな人」であり続けなければならないという強迫観念、アメリカへの屈託とその反動としての英国性へのこだわり、スウェード、オアシスといった仮想敵国・・・


 またこの作品は、一時投げやりになっていたギタリストのグレアム君の復活作とも言える。音楽性がアメリカンオルタナティブに接近したせいもあるが、彼の奏でる美しいノイズが全面に出てきたのはファンとしてとても嬉しい。でも、日本人ってどうしてボーカリストでなくギタリストに感情移入するのだろうか。

 97年5月に見ることのできた彼らのライブも非常に闊達でかっこよかった。以前のようなポップな人の演技でなく、丸腰でのたうちまわるデーモンの姿は純粋にかっちょよかった。グレアム君の歌う "You're So Great" も聞けたしね。


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初出公開: 1999年04月25日、 最終更新日: 2000年01月06日
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