実例に学ぶビジネスメールの注意点


 電子メールが、我々にとって欠くことのできない通信手段となっているのは議論の余地がありません。逆に言えば、電子メールの使い方いかんではビジネスに支障がでかねません。電子メールが例えば手紙と違うのは、外部とのやり取りに利用されるのと同じくらい、もしくはそれ以上に(企業、組織)内部の連絡に使われることがあります。当然ながら両者では言葉遣いも違ってくるはずで、そのあたりの使い分けが必要になります。もっとも同じ組織内であっても、相手により気遣いは必要なのですが、それは本文の対象外です。

 今回は、ワタシの元に実際に届いた取材メールを題材として、ビジネスメールの注意点について考えていこうと思います。

 さて、この時点で最初の注意点が浮かび上がります。

1. 取材は公開が前提。電子メールも同様

 今回は差出人の名前、メールアドレス、電話番号は伏せますが(それらを晒すのが目的ではないので)、取材に応えて喋ったこと、書いたことを公開されて文句をいえないのは、取材側についても同じです。簡単に言えば、「あなたのテープもまわってるけど、ぼくのテープもまわる」ということです。

 もっとも以下のメールを送られた記者さんも、ジャーナリストであればそのあたりのことは先刻承知でしょうが。

From: "XXXX XXXXXXXX" <xxxxxxxxx@ap.org>
To: <ymgrtq@xxx>
Cc: <xxxxxxxxx@ap.org>
Subject: question from the AP
Date: Thu, 22 Apr 2004 19:31:45 +0900

米国通信社APの東京在中の記者××と申します。
今国内でのbloggingについて取材しております。
是非お電話して下さい。
TEL: 03-6215-XXXX 
お聞きたい事はベーシックなものばかりです。
bloggingは日本でも今後もっと盛んになるのでしょうか?
どのようなユーザーそうをかんがえられてますか?
日本の特徴のようなものはあるのでしょうか?
bloggingのbusiness potentialをどのようにお考えですか?
AP通信が世界最大の通信社であり、The New York Times
やWashington Postも含め米国新聞やTV局など2000社、
世界規模では7000社以上にニュース記事や写真を送信しております。
どうぞよろしくお願いいたします。
(以下、シグネチャなど略)

 それではメールの各部を取り上げながら解説しましょう。

2. メールの題名は具体的に内容が分かるものに。英語より日本語の方が望ましい

Subject: question from the AP

 これでは一体何の用件か分かりません。メールの題名は内容の分かる具体的なものにすべきです。初めてメールを出す相手なら尚更です。

 そういえばメールの題名に日本語を使ったことに管理者が難癖をつけたために紛糾し(もちろん紛糾の原因はそれだけではありませんでしたが)、挙句の果てには「愚弄するのもいいかげんにしろ、山口」といった怒号が飛び交った末に閉鎖に至ったメーリングリストがありましたが、日本語 Subject が問題にされたのは過去の話と考えてよいでしょう。

 それにこれだけ spam メールが増えた現状では、題名が英語なだけでうっかりメールを捨ててしまうことも十分ありえます。当方もそれをやってしまったこともやられたこともあります。誰もが spam フィルタを使っているわけではありません。このあたりについては検索の鉄人、関裕司さんの文章が参考になりますが、今回のメールであれば、英語であっても "blog" など依頼の内容と関係のある単語を入れておくのが最低限のラインでしょう。

3. 取材相手に何を求めているか明確に

米国通信社APの東京在中の記者××と申します。
今国内でのbloggingについて取材しております。

 電子メールの利点にその手軽さがあります。ビジネスメールであっても、手紙に書くような時候の挨拶を書く必要はありません(個人的にはできれば書かないでもらいたい)。

 しかし、最初のメールぐらい誰に宛てたものか明示的に書いたほうがよいでしょう。もっともこの点については当方にも非があるのかもしれません。「yomoyomo様」と書くことに人間としての尊厳を傷つけられたと感じられたのだとしたら、ワタシとしても大変申し訳なく思います。

 しかしそれを差し引いても、このメールには大前提についての記述が欠けています。それは、どうしてワタシが取材を受けるのか、ワタシに何を求めているか、ということです。

 話題からすれば『ウェブログ・ハンドブック』の訳者として、と考えるのが妥当でしょうが、同時にワタシは個人サイト作者であり、その立場だと質問への答えが変わるかもしれません(実際には変わりませんが)。ウェブロ関係ではもう少し立場が込み入っている(複数の立場を兼ねている)人もいます。質問への焦点の合った答えを得るためにも、相手に何を求めているか明記したほうが望ましいのは間違いありません。

4. メールで済む話はメールで済ませる

是非お電話して下さい。
TEL: 03-6215-XXXX
お聞きたい事はベーシックなものばかりです。

 何もフリーダイヤルを用意しろとは言いませんが、一銭も報酬のない(と思われる)取材依頼について、相手からの電話を要求するのはいかがなものでしょうか。

 これは個人的な事情ですが、現在当方は本業が忙しく、帰宅は平日は23時以降になることが多く、休日出勤も入っています。さすがに平日の夜11時以降にかけるのではまずいのでしょうが、かといって昼間にかけるわけにもいきません。そもそも電話を要求するなら、もう少し具体的な時間も指定してほしいところです。

 しかし、こちらに聞きたいのは「ベーシックなものばかり」だそうです。ならばそれこそメールのやり取りで十分ではないでしょうか。文字ベースで残るとなれば用語関係などで誤解も生じにくいのに。

5. 取材の結果が何に使われるか明確に

AP通信が世界最大の通信社であり、The New York Times
やWashington Postも含め米国新聞やTV局など2000社、世界規模では7000社以上にニュース記事や写真を送信しております。

 当方も、7000社以上という具体的な数字はともかく、AP通信が世界最大規模の通信社であることは存じております。

 で、それがどうかされまして?

 これまで複数の出版社から原稿依頼その他を受けてきましたが、上のような文章を添えてきたところはありませんでした。個人的な意見ですが、こういうのはむしろ取材される側になじみがないと思われる企業、媒体にこそ必要で(これは規模の問題だけでなく、明らかに毛色が違う仕事をしてきた相手への依頼についても言えます)、少なくとも世界最大の通信社様には必要ないものでしょう。

 何もこの一文を持って、ドン・コルレオーネ式権力誇示とは言いませんが、車にはられた「赤ちゃんが乗ってます」ステッカーを目にしたときと同じく、だから何なんだ、と反射的に思ってしまうワタシのような性格の悪い天邪鬼がいることは考慮に入れて損はないものと存じます。

 ただ一番の問題は違うところにあります。今回のメールには、そもそもどういう媒体でどういう記事を書くための取材か一切書かれていません。コメントが記事に使われ、「The New York TimesやWashington Postも含め米国新聞やTV局など2000社、世界規模では7000社以上にニュース記事や写真を送信」されるのが最大限の露出として、この記者さんの社内での資料作りに使われて終わり、かもしれません。どちらでも取材する側の勝手ではありますが、それすら明かさず、しかも電話代をこちらに負担させて情報を得ようというのはいささか虫の良すぎる話ではないでしょうか。会社の規模の話の前に書くべきことがあるでしょうに。


 結論としては、味噌汁で顔を洗って出直してこい、ということです。


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初出公開: 2004年04月26日、 最終更新日: 2004年07月06日
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