無線パスポートというダメなアイデア

著者: Edward W. Felten

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Edward W. Felten による Radio Passports: Bad Idea の日本語訳である。


AP通信の記事(訳注:日本語訳)が、2005年からアメリカ合衆国のパスポートに RFID チップを付けるという合衆国政府の計画を巡る論争のよいまとめになっている。

チップを付けることで、パスポートの持ち主の氏名、生年月日、パスポートの発行情報、そして写真が無線で読み取れるようになる。計画に反対する人たちは、30フィート(約9メートル)以内だと情報が読み取り可能になると主張している。これにより、例えば政治集会の参加者を政府が監視するのではないか、また(特に海外で)私的モニタリングされるのではないかというプライバシーの懸念が高まっている。

特定の場所で、そこにいる誰もが離れた位置から私のことをアメリカ人だと識別できるとなれば、自分が安全でなくなると間違いなく思うだろう。ましてや誰もが私の名前を取得し、データベースなり Google で私のことを検索できるとなれば、なおさら安全でなくなると思うに違いない。

合衆国政府の代表者は、「これまでに収集されたデータのみを顔写真とともに記録する計画なので」プライバシーに関する「リスクはほとんどない」と主張する。言いかえれば、パスポートを手渡した相手だけが現状知ることができる情報を利用するつもりだということだ。

情報を暗号化するか、さもなくば情報を開くのにパスポートの持ち主に PIN ナンバーの入力を求めればよいのではないかという議論もある。いずれもそれなりの効果はあるが、システムが非常に慎重に設計されないと、情報漏洩の危険が依然残る可能性がある。

分からないのは、そもそも離れた位置からパスポートが読み取れるようにすべき理由である。パスポートは、その内側に物理的に接触することを許された人ないし装置のみに情報を開示すべきである。間違いなく空港の移民局職員はそれに入るし、さもなくばパスポートの点検を求める職員としてもよい。その職員がちゃんと仕事をしているなら、何はともあれ実際にパスポートを見て、手に取りたいと思うだろうし。

不可解なことに、離れた位置からパスポートが読み取れるようになることへの懸念に対する政府の対策は、パスポートを離れた位置から読み取り可能になる時間を制限しようとするものである。彼らは、無線信号をブロックする導電性のプラスティック袋にパスポートを格納するか、あるいはパスポートを開いたときだけ離れた位置から読み取り可能になるようパスポートのカバーの中に導電性の仕切りを入れることを提案している。どちらのアプローチも無用なリスクを増やしてしまう――パスポートが開いているときに、職員以外の他の誰かに読み取られるかもしれないからだ。

正しい解決策は、パスポートから無線タグを全部除去し、接触により読み取れる電子情報に置き換えることで、反対派の人たちはそう主張すべきなのだ。


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初出公開: 2004年12月27日、 最終更新日: 2004年12月27日
著者: Edward W. Felten
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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