ソーシャルメディア図鑑:まえがき

著者: Ethan Zuckerman

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Ethan Zuckerman による An Illustrated Field Guide to Social Media の Foreword 部分の日本語訳である。


ソーシャルメディアは、2020年の大統領選挙の期間中もその後も、アメリカの政治と市民生活に関する議論で注目の的だった。トランプ大統領とその支持者たちは、Twitter などのツールを利用して、大統領選挙が盗まれたという虚偽の物語を展開し、広めた。右派の過激派がソーシャルメディアプラットフォーム上で組織化し、1月6日にアメリカ合衆国議会議事堂に突入し、選挙人投票の集計を短期間中断させた。最終的に、Twitter も Facebook も前大統領を締め出したが、これらのプラットフォームがオンラインの言論に行使する力を巡る議論に拍車をかけた。

ソーシャルメディアは、アメリカや他の国で政治の分極化を増大させているのだろうか? 陰謀論者やQアノンなどの運動はソーシャルプラットフォームで生み出されているのだろうか? ソーシャルメディアのアルゴリズムは、無防備なユーザを過激思想に引きずり込む可能性があるのだろうか? 要するに、ソーシャルメディアは民主主義にとって悪なのだろうか?

これらは考えてみる価値のある疑問だが、重要な盲点も示している。Facebook、Twitter、YouTube はとても有名だし、主要メディアに大いに誇張されて報じられるので、あらゆるソーシャルメディアが同じように機能し、同じ問題に苦しんでいるとみなしがちだ。こうしたソーシャルメディアに対する偏狭な見方は、ソーシャルメディアをめぐる我々の議論並びにその成果を限定するだけでなく、ソーシャルメディアが可能なことや、そのあるべき姿についての想像力をも抑圧してしまう。Digital Public Infrastructures での我々の仕事は、Facebook、Twitter、YouTube とまったく異なる働きをするソーシャルメディアを作れるというアイデアに始まるものだ。ソーシャルメディアのさまざまな「ロジック」――ソーシャルメディアが機能しうる、また実際に機能するさまざまな形――をマッピングするのは、それ以外の世界が可能である確たる証拠になる。

本フィールドガイドは、ソーシャルメディアのプラットフォームや慣行を一年にわたり探究した成果である。我々は、Facebook、Twitter、YouTube とは異なる「ロジック」で動くソーシャルメディアを探すところから始めた。そのため、暗号コミュニティや脱中央集権プラットフォームの考案者たちのような、監視資本主義とは異なるモデルを自覚的に採用せんとするコミュニティを観察することとなった。我々はまた、他の国やサブカルチャーの協力者にも接触することで、中国やロシアのソーシャルメディアのエッセイや、ファンフィクションのコミュニティにある贈与のロジックを扱ったエッセイを書くことなった。

我々は(不公平、不十分、不完全な)ウェブベースの人気指標に従ったが、例えば、質疑応答プラットフォームやフォーラム形式のソーシャルネットワークといった、その人気に驚かされた、それから外れるソーシャルメディアのロジックを見出すことにもなった。ソーシャルメディアの人気ランキングを深く掘り下げていくと、職場向けソーシャルネットワークなど、これまで取り上げたことのないロジックが明らかになる。また、今回の研究期間中に TikTok などのネットワークが人気を博したことで、状況は絶えず変化しているのを実感し、調査カテゴリを新たな次元に拡張する必要がないか自問させられた。友人をフォローしないソーシャルネットワークはソーシャルネットワークなのだろうか? アルゴリズム指向のソーシャルネットワークは独自のものなのか、それともあらゆるソーシャルネットワークがある程度アルゴリズム指向なのだろうか?

本ガイドが決して包括的なものでないことを――早い段階で、また何度も――お断りしておく必要がある。我々が書いていないロジックが存在するというのもあるし、うまく見定められなかったロジックもある。我々が書いた道筋も決定的なものではない。ソーシャルメディアを理解する理想的なカテゴリー一式があるとは思っていないし、たとえあるとしても、それが正しいカテゴリーと考える根拠は何もない。我々がこれらのカテゴリーを採用するのは、それでビジネスモデル、技術的アフォーダンス、コミュニティ、規範、その他の要素なさまざまな組み合わせを受け入れ、いろいろなやり方でソーシャルメディアについて語れるからである。

プロジェクトが時間をかけて進行するにつれ、自分達がひとつのフィールドガイドを作ろうとしているのがはっきりした。鳥のフィールドガイドが、森を歩いていて出会う鳥をもっとよく観察する助けになるように、本フィールドガイドがソーシャルメディアをこれまでと違った目で見るきっかけとなれば幸いである。このメタファーを強調すべく、我々は RIVA Illustrations の非凡な Fiammetta Ghedini と協力して、お気に入りのソーシャルメディアのロジックを表現する一連の空想上の鳥を作り上げた。

本フィールドガイドは、ただ見るだけでなく、新たなソーシャルメディアのロジック、ソーシャルネットワークの新たな分類法、語り方を見つけるよう誘うものだ。本書が生きたガイドになることを願うし、新たなロジックを記録するなり、我々が作り上げたカテゴリに挑むなり、時間とともにより多くの著者が我々に加わるのを願うものだ。本プロジェクトから持ち帰ってほしい重要なメッセージは、我々がソーシャルメディア空間のマッピングを正しいやり方でマッピングしているということではなく、ソーシャルメディアは我々が考えるよりも多くの場合、はるかに複雑で多様だということだ。

我々としてはこの多様性こそを祝福するが、それはソーシャルメディアが何たるかの理解が狭すぎると、ソーシャルメディアに何ができるかの洞察も狭まってしまうと思うからだ。Ruha Benjamin が言うように、「想像力こそが戦いの場」なのだ。現在のところ、我々はベンチャーキャピタリスト、少数の企業、そしてマーク・ザッカーバーグの想像力の中で生きている。それから抜け出すには、我々は何か違ったものを想像しなければならない。本プロジェクトがそのプロセスへの有益な貢献になることを願っている。


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初出公開: 2021年10月04日、 最終更新日: 2021年10月04日
著者: Ethan Zuckerman
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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