The Anti-Ownership Ebook Economy - Introduction 日本語訳

著者: Sarah Lamdan, Jason M. Schultz, Michael Weinberg, Claire Woodcock

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Sarah Lamdan, Jason M. Schultz, Michael Weinberg, Claire Woodcock による The Anti-Ownership Ebook Economy の Introduction の日本語訳である。


実は電子書籍を「買う」ことができないという話を聞いたことはあるだろうか? 確かに、電子書籍リーダー、タブレット、電話上で「買う(Buy)」ボタンをクリックする時には、それは完璧でシームレスな商取引と感じるだろう。しかし、紙の本のように電子書籍を扱おうとした途端――例えば、友達と共有するとか、誰かに売るとか、学校の図書館に寄付するとか、場合によってはオフラインで読むだけでも――現実に直面する。あなたはそれをどれもできなかったりする。

大抵の電子書籍に関して、たとえあなたがそれらを「所有」していると思っても、その電子書籍を買った出版社やプラットフォームがそれは違うと言ってくる。出版社やプラットフォームは、あなたは本にアクセスするライセンスを買っただけで、それでなんでもやってよい権利を買ったのではないのだと言い張るのだ。そして Amazon や Apple などのプラットフォームは、我々が電子書籍を読むのに利用するテクノロジーをほとんど支配しているので、大抵彼らの意見が電子書籍のエコシステムの現実を決定する。本を支配するだけでなく、これらのプラットフォームは、現実の本屋がこれまでできなかったことをいくつもやれる。プラットフォームはあなたの読書傾向を追跡できるし、本を転売したり貸したりするのを阻止できるし、本の中身を変えられるし、本をそのデジタルライブラリから丸ごと削除もできる――たとえ、その電子書籍を買った後ででも。こんなことは、本を買ったら、追跡されたり検閲されることなく、共有するなり売るなり、単に読むなりするのが自分の権利だと自信をもって言える紙の本の市場では起こらない。

我々はデジタルフォーマットに移行した際に、読者の権利を失わせる何かが起こったのである。電子書籍の発展の裏には、デジタルへの移行がアナログの世界に所有権を置き去りにしたところが明らかにある。

ほとんどの出版社は今も紙の本を売っているが、電子書籍に関して言えば、その大部分は限られたライセンスしか提供しない方向に皆で決めているように見える。この変化の理由は、経済的なところもあるし、法的なところ、技術的なところ、そして心理的なところもある――本のデジタル所有権を制限ないし除外すれば、出版社の収益があがり、非認可のウェブサイト上にリークされる無料コピーを防ぎ、出版社やプラットフォームが、電子書籍を提供する大学や図書館と同じく、読者の行動をかつてないほど支配し追跡できると信じているわけだ。しかし、こうした信念が現実に即しているかは、激しい論争のもとになっている。

経済的観点から言えば、プラットフォームや出版社は、ライセンスによって電子書籍がいかに収益を生み出すかコントロールできるようになるとも考えている。例えば、彼らは図書館が本を後援者に貸し出す権利に課金するライセンスを採用したり、電子書籍にユーザの行動を監視するプラットフォームを抱き合わせにし、ユーザのデータを売ることで新たな収入源を生み出している。

法的な観点から言えば、販売からライセンスへの移行は、書籍の販売後の利用に対する出版社の支配を制限してきた何世紀にもわたる法を迂回しようとするものだ。この法は、「消尽」と呼ばれる著作権の原則である。消尽の背景にある考え方は、出版社は常に本を最初に売ってお金を稼ぐ権利があるが、その後は、販売された複製には彼らの支配が及ばないというものだ。新たな所有者は、その本をいかようにも転売したり、貸したり、利用できる。ライセンスは、その支配権を永久に著作権の所有者に留めようとするものだ。

技術的な観点から言えば、出版社は Amazon、Apple、OverDrive といった企業に電子書籍の流通と管理を依頼してきた。こうした出版社とプラットフォームの結びつきが、出版社に本の販売後の生命に関わり続ける新たなチャンスをもたらす。まさにプラットフォームが我々のツイート、更新、アップロードする画像を管理するように、我々がその本をいつ、どこで、どのように使っているか把握し続け、そして時には意のままにコンテンツを修正したり、削除さえすることで、プラットフォームも我々が買う本を支配できるようになる。その同じ支配により、プラットフォームもいつどのように読んでいるかを監視できるようになり、ユーザデータを売ることが新たな収益源の鍵となる。

最後に心理的な観点で言えば、出版社とプラットフォームの提携は、より大きな法的、技術的なコントロールを握れば、より大きな金銭的報酬を得られるに違いないという、長く出版社にあった信念を強めている。出版社は、購入者に追加利用(例えば、図書館が後援者への電子書籍の貸し出しを望む場合)に支払いを強いたり、出版社の支配の及ばない本の共有や流通を制限することで利益が生じると考えている。こうした考えが現実のものとなるかは定かではないが、そうしたお気持ちが根付いてきた理由の一つに、電子書籍のプラットフォームが、提携の解消を極度に難しくする形で出版社を現在閉じ込めてしまっていることがある。

出版社が、読者の支配と監視とともに、収益を増やす斬新な方法を模索するのは今に始まった話ではないが、本レポートは、出版社とプラットフォームの結びつきが、電子書籍市場をその目標を一直線上に考えるメカニズムを生み出すことを解説するものである。その新たな市場における提携は、こうした変化が読者や組織的な書籍購入者、特に図書館にとって最良の選択肢かどうかについて疑問を引き起こす。市場におけるもっとも新参のプレイヤー――電子書籍の流通プラットフォーム――が、自分の得になるよう物事を方向づけているのではないかという疑問も出てくる。

進行中のダイナミクスを十分に理解するため、我々は、出版社からプラットフォームの CEO、図書館の代理人、図書館員、弁護士[1]にいたるまで、電子書籍市場において各種の重要な役割を果たしている30人を超える利害関係者にインタビューを行った。我々は、電子書籍市場における彼らの役割を理解する助けとなる優先事項、懸念、制約について議論した。我々の目標は、この世界が彼らの目にどのように見えるか理解して記録し、その見解からより一般的な結論を導き出すことだった。次章から、電子書籍の消費者の選択として所有権を復活させたい場合に前途に待ち受ける課題に加え、電子書籍のコレクションの所有を難しくしている変化を分析する。[2]

我々の研究により、以下のいくつかの重要な結論が導き出される。


[1] 多くの情報源が、本研究に参加することで、彼らの雇用主や業界一般から報復を受ける恐れを表明した。そのため、調査研究の参加者を匿名化する措置がとられている。

[2] 電子書籍市場を説明するのに使われる専門用語をめぐる顕著な混乱がある。電子書籍プラットフォームや電子書籍の制作や販売のあらゆる局面に関わる利害関係者は、ほとんどすべての電子書籍市場の商取引を説明するのに「買う」「売る」という言葉を使う。これは紙の本に対して使うのと同じ言葉である。しかし、この簡潔な表現は、紙の本を買うのと、電子書籍をライセンスするのと、電子書籍を買うことの極めて本質的な相違を分かりにくくする。本稿では、初めから終わりまで、様々な交換について正確な記述を心がけている。

[3] See Sarah Lamdan, Data Cartels (2022); Shoshana Zuboff, The Age of Surveillance Capitalism (2019); Press release, FEDERAL TRADE COMMISSION, https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2021/10/ftc-ramp-enforcement-against-illegal-dark-patterns-trick-or-trap-consumers-subscriptions (last visited Mar. 16, 2023)


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初出公開: 2023年11月27日、 最終更新日: 2023年11月27日
著者: Sarah Lamdan, Jason M. Schultz, Michael Weinberg, Claire Woodcock
日本語訳: yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)
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