YAMDAS対談 第12回

椎名林檎さんに・・・


 yomoyomo(技術者の端くれ、以下)とベンジャミン(憂い人、以下)の与太話。2000年3月10日長崎の居酒屋にて。


椎名林檎だけどさあ、君が彼女の名前を出したときにね、確かに「コスプレ」と言った記憶はある。でもその後褒めた記憶もあるんだけど。

:違うんだな・・・「何、あのコスプレのイロモノが」みたいに小馬鹿にされたのを覚えている。

:いや、確かに「コスプレ」とは言ったが、とにかく褒めたのだけど[註1]

:いや、コスプレだから俺の目に留まったところはある。だってそのままじゃ昔の歌謡曲みたいじゃん。

:お前は彼女のこといつ知ったの?

:デビューの頃・・・「歌舞伎町の女王」の頃には知っていたよ。

:デビュー曲は「幸福論」じゃなかったっけ。

:だからあの頃はまだメディアがまともに取り上げてなかったよ。当時さ、渋谷系とか流行っていたじゃない。

:でも渋谷系っていうとオザケンとかオリジナル・ラブとか・・・

:そうそう、それに抗するように歌舞伎町系で出していたんだよね・・・今は新宿系に変わっているよね。いつからそこまで広がったのか、という。

:ハハハ、俺が知ったのは「ここでキスして。」がヒットしてだね。あれが一般的な初めてのヒットだったから。

:いや、あの頃からいいな、とは思っていたのよ。でもさ、アルバムのタイトルが「無罪モラトリアム」だったじゃない。当時はさ、エヴァンゲリオンとかのモラトリアムというかナヨナヨした・・・

:お前好きだったよな、エヴァンゲリオン。

:俺好きじゃないよ!

:お前面白いと言ったじゃねえかよ! ワタシは一度も見たことはないがな。ああいったサブカル系は初めから見ないことにしてるんだよ。

:ストーリーが面白いとは言ってないって。ああいうのに騒いでるのが面白いと言ったの。

:でも確かに「モラトリアム」ってのは嫌だったねえ。

:だから椎名林檎好きになったら、エヴァンゲリオンのファンなんかと同じになっちまうのじゃないか、とか思ったわけ。モラトリアムという言葉を小馬鹿にしてたからね、「ま、俺はそんなタイトルの人の歌は聴きたくない」というね。で、「本能」のコスプレでゲッチューされたわけ、僕は。

:ゲッチュー・・・お前なあ・・・(ベンジャミンをしばく、一発目)。でもさ、アルバムと「本能」の間には結構間があるじゃん。

:確か体調崩してたんでしょ?

:あ、そうなん? そういえばレンタル屋でずっと「無罪モラトリアム」がかかっていて、いいなと思ったことがあったね。でも買おうとは思わなかった。タイトルもそうだけど、ジャケットもねえ、あんまりよくないよ。

:まあ、俺は「本能」で射止められたわけだよ。(エロの帝王の)谷村新司もそうだって言っていたから安心したけどね。

:でも確かにあのコスプレは一つのエポックメイキングだったよね。

:俺ビデオに録ったもん。でもあれあんま金かかってないじゃない。

:あれは低予算だよ。

:いやだから、ちょうどラルクなんかがニューヨーク・ロケなんかで(制作費)何千万とか言っていて、それに全然勝っていたのが面白かった。俺やっぱガラス割るのには驚いたクチね。

:あれは驚くよ。だよね、インパクトあるもん。

:・・・でもさ、椎名林檎って顔はマルシアだよ。

:は? それ違うんじゃねえか?

:あと中島みゆき的なところがある。

:うーん、君にしてみれば椎名林檎は顔がマルシアの中島みゆき、ってか? 俺にしてみれば、中島みゆきにどうしてもいいイメージがないんだよねえ・・・

:椎名林檎の歌詞の世界ってさあ、竹内まりやとかとは違うだろ。中島みゆき路線に近いよ。

:うーん、言われてみればね。でね、それで俺は思うんだけど、どうして女性ミュージシャンって歌詞ばかりが注目されるんだ? 俺それにはすごく不満がある。

:だから、俺はコスプレにハートを射止められたわけ。歌詞だけだったら俺みたいに「これイロモノ」ていう感じで・・・

:それ逆じゃねえか! 歌詞読んだら判るだろうが。お前逆言ってねえか?

:・・・それがねえ、人の心理のおかしいところでねえ[註2]

:(ベンジャミンをしばく。二発目)それでね、今大抵俺車の中で彼女のアルバム聴いてるからさ、歌詞を完全には把握できてないのよ[註3]

:彼女の歌詞って田嶋陽子が聴いたら怒りそうなところもあるよな。

:うん、そこが面白いんだよね。強持てじゃないけど、強い女性みたいなイメージがあるじゃない。でも歌詞を読むとそうじゃないんだよな。90年代・・・はもう過ぎちゃったけど、女性ミュージシャンはそういうことを歌いそうなイメージがあるんだけど、彼女はそればかりじゃないんだね。

:「本能」のビデオなんかもうちらよりも上の世代にウケたんじゃないかな。

:でもあれのレズシーンとかその世代の感覚のものじゃねーだろ。

:でも浜崎あゆみなんか聴いてる女子高生には分からんと思うけどね。一歩か二歩上の世界観じゃない?

:そうかあ? でもさ、やはり女性ミュージシャンの歌詞ばかりが注目されるのは・・・

:でも彼女みたいにビデオクリップばかりが注目されるのもよくないんじゃない?

:彼女の場合はそれもちゃんとした表現になっているからいいと思うよ。でもね、君のいうところが悪い面で出たのが「罪と罰」だと思う。

:「罪と罰」は傑作だよ。

:俺はそうは思わない。楽曲にしてもビデオクリップにしても彼女のイメージと存在感に頼ってしまっている。逆に「ギブス」はいいね。本人曰く「ギブス」は駄曲らしいけど。でも俺は「ギブス」の方が圧倒的に好きだ。

:「ギブス」と「罪と罰」だったら「罪と罰」の方が面白いと思うよ。横チチが見えるもん。

:あのなあ・・・(ベンジャミンをしばく。三発目)でもさ、チチという観点から言うとさ、「ギブス」の方がいいじゃない。俺がチラリズムが好きだからか?

:「ギブス」は黒いブラジャー[註4]だったけど、「罪と罰」はノーブラだったのよね。

:ふーん(ベンジャミンをしばく。四発目)、「ギブス」ってはっきりいって歌謡ロックと言ってもいいと思うのだけど、そういうところでちゃんとクオリティがあるから僕は好きだよ。ビデオクリップもいい感じだしね。

:俺は「罪と罰」の方がいいと思うけど・・・

:ああそうそう、君が言ってたさ、写真週刊誌の「路上キス」だか、あれ読んだよ・・・でもあの記事面白いよね。「居酒屋に行くとふてぶてしく座り」とかね。でさあ、君彼女のファンが作ったウェブページのことを言っていたじゃない。

:ちょっと検索しただけでもファンが作ったウェブページなんてのは山ほどあって、ページの作り自体が「林檎姫」てな感じのもあってね、みんなして「姫、姫」という感じもどうしたものかね。そういう暇があったら清原の応援ページでも作ってくれよ[註5]、という。

:それは単にお前の趣味の問題だろ! でもこれからどうなっていくんだろうね。何を望みます?

:清原に?

:椎名林檎にだよ!

:今の路線を続けていけば、と思う人が多いと思うよ。存在自体が実験的な人だからさ、逆に実験的なサウンドというのは難しいと思うよ。

:存在が実験的か?

:でも浜崎あゆみとかさ、小室サウンドには皆飽きてきているわけだから。

:そういう意味で彼女がオルタナティブ足り得たのはいいことだと思うよね。

:決して山下久美子とか白井貴子とかいう系統にはならないだろね。

:白井貴子の名前が出てくるところが俺らの世代だよな[註6]。でもさ、窮屈な感じもするじゃない。ラクになれない感じがするところもあるよね(それも魅力ではある)。

:そういうのも時代で繰り返すものだと思うよ。今の音に食傷気味の人がいるんだから。

:俺の場合はやはりサウンドだね。アレンジとか実はすごいじゃない。

:自分はアレンジしない人とか言っていたよ。

:でも「積木遊び」だったけ。スパークスのような騒々しくてオリエンタルな感じとかあるじゃん。

:・・・ところでさ、あさりバター来たか?


[註1] このやり取りを実は十回以上やっている。いや、ホント褒めたっての。

[註2] 本文全体に言えることであるが、完全に酔っ払いの戯言である。シリメツレツだ(本人もどういう意味で言ったか覚えてないそうだ)。

[註3] つまり、yomoyomo が如何に粗末なオーディオ装置を備えた粗末な車に乗っているか、ということだ。

[註4] murayama さんから情報をいただいたのだが、「ギブス」でもノーブラだったそうだ(笑)。なお、編集で CG 班が(ソファーからずり落ちるシーンなどで)出てしまった乳首の部分を1コマ、1コマ、Photoshop で消したとのことです。へー、そうなんだ。タレコミありがとうございました。

[註5] 彼は何故か巨人の清原のファンなのである(しかし、アンチ巨人である)。

[註6] 実はすごく好きだったのだ、白井貴子。


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初出公開: 2000年03月31日、 最終更新日: 2000年08月19日
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