個人的な話


 当方の文章は常に個人的な事情に応じて書かれている。「I can't blog.」も例外ではない。僕のような凡人が一生かかって一度できるかどうかというとんでもないレベルの人生最悪の決定をしてしまい、何かしていないと頭がおかしくなりそうで書いたパラノイア的長文の公開時期が、今回の blog 騒動(?)に前後したのは偶然である(また本文がその騒動がすっかり下火になってから書かれていることもしかり。精神状態は同じなのですが…)。

 しかし当然ながらあの時期に書いたからこそ、文章のストーリーが決定付けられたところは間違いなくある。そしてそのため多くのページにリンクされ、今回の騒動を代表する文章の一つになった。言うまでもないが、これは書き手として非常に光栄なことである。2ちゃんねるの blog スレにおいて、自分の文章が1においてリンクされているのを見たときは嬉しかった。

 あの文章に登場するかなりの数のリンクを見ても分かる通り、僕はあの文章を書くためにそれなりの期間、準備をしてきた。一体どうやってあれだけ調べるのかと書いた人もいるが、少なくとも僕のような頭の回転が遅く、また文章を書くのも遅い人間にはそれが必要なのだ。それが僕のライティング・スタイルである。あの文章のタイトル通りである。僕には blog はできない。そしてそれは別に blog 自体に対する否定的な見解を示すものではない。

 そんなワタシが blog について調査したのは、「Wiki Way コラボレーションツールWiki」の翻訳を手がけていたためである。翻訳をやるために Wiki について深く知らなければならないのは当然だが、その周辺の動き、具体的には他のコミュニケーション・ツールについても動向を把握しなければならない。また Wiki について調べるうちに、少なくとも日本人には Wiki は漠然とした共同作業よりももう少し統制だった作業、さらにはウェブ日記などの個人用途のほうに向いているのではないかと思い出したこともある。この辺については「Wiki は何に適しているのだろう」で「tDiary コミュニティの発展形」という言葉で表現しているが、そこで日本のウェブ日記システムは、また海外のウェブログ関係はどうよ? と目が行くのは自然な流れだった。


 今回の騒動において、いろいろな(感情的)反応があったと思うが、基本的には得るものは大きかったと思う。というか、できればポジティブに捉えたいものだ。

 今回の騒動ではじめて海外の blog ツールを知ったという人は多いだろう。それを導入してみた人もぼちぼち見られるが、それがその人のスタイルに合ったものなら素晴らしいことだ。そうでなくても自分が使っているツール、スタイルを問い直す機会になるかもしれない。何度も何度も書くように、それぞれにとって最も適したツールを用い、結果として良質なコンテンツが生まれるならそれで良いのだ。

 個人的にすごいと思ったのは tDiary の作者であるただただし氏で、日本のウェブ日記と海外の blog ツールの相違について的確な分析を即座に行っただけに留まらず(アンテナと RSS の果たす役割の相違の話は僕が文章で取りこぼしてしまったものである)、さらっと tDiary の blog的運用方法を公開し、Blogkit として形にしてしまう。壊すのではなく作る、ハッカーの矜持を感じた。

 また2ちゃんねるの blog スレッドも、お決まりのノイズでしかない罵倒や煽りもあったが、少なくと立てられて数日間は良スレの範疇だった思う。僕自身これを読んで時系列的に話題を追ったところはある。


 そして今回の件で標的の役割を負うことになってしまった人でも、伊藤穣一氏の姿勢などは評価できると思う。山形浩生勝手に広報部部室への書きこみは必ずしもすべてが的確なものではなかったかもしれないが、それにより山形浩生氏や崎山伸夫氏らの有益な書きこみを引き出せたところは間違いなくある。

 そしてその部室への当方の書きこみを改めて見ると、なるだけ騒動を沈静化させる方向に誘導しようとしているのが自分でも面白い。さきほど「できればポジティブに捉えたい」と書いたが、僕自身は元々ポジティブ思考な人間ではない。むしろ人間嫌いの後ろ向きな厭世家である。そんな僕でも、感情的な反応に終始しては有益でないと考えたのだ。

 伊藤穣一氏とは直接メールでやり取りもした。ご承知の通り、僕は以前文章で彼について手ひどく書いたことがあり、今回の文章ではなるだけフェアな記述を心がけたつもりだが、それでも僕の文章が伊藤氏らを批判する最右翼の文章だと捉えられたりもした。そういう相手に、しかもワタシのようなどこの馬の骨ともしれない人間にコンタクトしてくる率直さには敬意を払いたい。「I can't blog.」にも書いた通り、氏の blog は既に価値を持っていると思うし、National-ID 関係の動きについては僕のほうが CPSR-J における 山根信二氏や伊藤穣一氏らの活動を追い勉強することになるだろう。評価すべきところはきちんと文章で評価しようと思うし、僕に貢献できることがあれば貢献もしたい。あ、でも、おかしいと思ったらやはり遠慮なく批判します。


 そして祭りも終わりとなって絶望書店の既存のウェブ日記を叱咤する文章が話題にのぼったが、感想は特にありません。あと mesh 関係についてももうあげつらうことはしない。正直「Blog騒動顛末記 〜その壱〜」初期公開版を読んだときは頭に血が上り、これまでの姿勢を180度転換して叩きまくる文章を書いてやろうかと一瞬思ったが、すぐに鬱状態がひどくなったので止めた。

 それよりも日本ウェブログ学会附属図書館に僕の文章がリンクされなかったのは正直残念だった…という話もやはりどうでもよくて、問題はその附属図書館にも画像入りで紹介されている Rebecca Blood の「The Weblog Handbook: Practical Advice on Creating and Maintaining Your Blog」である。前回の文章で、誰も訳さないなら俺が訳すぞと書いたのだが、こんな場末の弱小サイトなど誰も見るわけがないと思ったのでつながりのある出版社(となると一つしかないわけだが…)に打診してみた。で、穏便に断られました(笑)。やはり I can't blog. などというふざけたタイトルの文章を参考文書に挙げたのが失敗だったのだろうか(そういう問題ではない)。


 しかしこれはページ数もさほどでないし入門編に良いと思うのだけどねえ(欠点としては図や画像が一枚もないこと!)。是非訳してみたいものだ。というか Rebecca Blood のサイトで公開されている本からの抜粋「Weblog Ethics」をざっと訳してしまったし(せっかくなので公開しておきますが、著者の許可は受けていませんし、既に誰か翻訳を行っているところかもしれませんので一週間ほどで削除する予定)。

 どこかこの本の訳書を出す出版社はないものか。こういうときワタシのような田舎在住のただの一般人はつてがなくてダメなんだよね…などと弱音を吐いてはいけない。実は先月末にとある飲み会に参加させてもらうことができ、そのときに出版社の方数名から名刺をもらっていたじゃないか。早速名刺ホルダーをまさぐる。

 ほら、株式会社インプレスの名刺がある…のだが、この方(非常に有用な情報源サイトを持っておられる)に対してワタシは「ああ、先日会社で購読していた PC Watch を止めまして」とアホなことを口走ってしまったっけ……バカ。

 そうだ日経BP社の名刺もある…のだが、明らかに担当外の分野の編集部になるし、それに第一この方(ワタシを宴席を加えてくださった幹事でもある)に対してワタシはいきなり「アナタ、ワタシのことなど相手にしていないか、そうでなくても嫌われていると思ってました」と暴言を吐いたではないか。

 今思い出すと他にもとんでもない暴言、妄言を各氏に口走っている。別に酒を飲んでいた、からではない。発言はすべて覚えている。ワタシ自身元からそういう人間なのだ。


 ネットと現実では別人格で…といった話はよくあることで、ネカマなど悪質なものは別とすると、ネット上ではコワモテであるが実際に会ってみると物腰が柔らかい…というパターンを聞くことが多いように思う。ワタシの場合は逆で、ウェブページ上に書く文章は自分でも真面目だと思うのだが、実際はただの性格の悪いヨタモノだったりする。また件の宴席での発言にしても、10年前だったら翌日自己嫌悪で死にたくなっただろうが、今は結構平気だったりする。これは感性が恥知らずなおっさん化しているということだろうか。だから、初対面のほそのひでとも(呼び捨て)に対して「何だよテメェ、好青年じゃねえか、爽やかじゃねえか。なんか裏切られた気持ちだよ、失望しますた」と一方的に絡んで困惑させたことについてもほとんど反省していない。そうだ、全部ほそのひでともが悪いのだ。大体、宴会の次の日の日曜にミサに行ってんじゃねぇ!【それならいつ行くおれカネゴン】

 …と、電波系の妄言を吐いたところで不条理に文章をさくっと終わらせて…いやいや、名刺をチェックしていたんだろがよ。他に出版社の方の名刺は……あ、あった! 婦人公論編集部?……


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初出公開: 2002年11月28日、 最終更新日: 2002年12月11日
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