創業者の訛り

著者: Paul Graham

日本語訳: yomoyomo


以下の文章は、Paul Graham による Founders' Accents の日本語訳である。

本翻訳文書については、Shiro Kawai さんに誤訳の訂正を頂きました。ありがとうございました。


最近、Inc が私のインタビューを公開したが、そこで私は非常にきつい外国訛りのある創業者と彼らの会社の失敗に相関関係があることに気付いた話をした。

一部でこの発言が外国人嫌い、あるいは人種差別者とさえとられた――まるで私が外国訛りそのものが問題だと言ったかのように。

ただ私はそんなことは言ってないし、思ってもいない。シリコンバレーでは誰もそんなことは思わない。ここで最も成功している創業者には喋りに訛りがある人がたくさんいる。

私がインタビューで語ったのは、創業者の訛りがきつすぎて彼らの言うことを他の人が理解できない場合の話である。つまり、問題は訛りの文化的なシグナルではなく、他の人が創業者の言うことを理解できなきゃスタートアップを軌道に乗せるのは現実的に難しいということだ。

私は既にこの問題について New York Times の記者と話したときに以下のように説明している。

しかし、すべての Y Combinator 企業の価値評価を行うと、グレアムはより重要な相関関係を発見した。「きつい外国訛りのある CEO を見つけるにはリストのずっと下まで見ないといけない」とグレアムは私に語った。「驚くほど下になる――100位くらいか」私は意図をはっきりさせたくて彼に尋ねた。「ロシア生まれみたいに喋るのでも構わないんだよ」と彼はソヴィエトの悪党を真似た声で言った。「それで結構。皆が君の言うことを理解できるならね」

みんな分かった? 訛りがあってもいいのはみんな同意するよね? 問題はあなたの言うことを理解できない場合の話だから。

CEO の言うことを理解するのが難しいためにその会社の成功に悪影響を及ぼす閾値があることを裏付ける経験的証拠はたくさんある。そして正確にどうとはわからないが、投資家がその会社のデモ・デーのプレゼンテーションを理解するのに支障をきたすだけに問題が留まらないのは間違いない。デモ・デーのプレゼンテーションは2分30秒しかない。そんな短いプレゼンテーションなら、個々の音素のレベルで喋ることを記憶できるはずだ。我々が関わる企業のほとんどはこれを行う。

会話の方がもっと問題だ。私自身のオフィス・アワーの経験から分かる。我々はオフィス・アワーでたくさんの細かいポイントについて話をする(対面でなく電話越しに話すのでさえも大きく質が下がる。それこそが、我々が投資するグループに YC 期間中シリコンバレーに移住するよう迫る理由だ)。グループが英語をうまく話せないと、深い話が思うようにできないことがわかる。やばいな、と感じるんだ。十分なコミュニケーションがとれていないと。そう感じた時は、なるべく創業者に警告するようにしている。これから彼らが会う人々のほとんどは、私ほど一生懸命にあなたを理解しようとはしてくれないのだから。

スタートアップの創業者は常に売り込みを行っている。文字通りの顧客に対してだけではなく、現在の、また潜在的な従業員、パートナー、投資家、報道機関に対してもだ。スタートアップの最高のアイデアは、その性質上ダメなアイデア(訳注:日本語訳)とほとんど区別がつかないので、わずかな誤解も命取りになる。なおかつ、あなたが創業者として出会う多くの人たちは、懐疑的でないにしろ、最初は冷淡なものだ。あなた方がでかくなるか彼らにはまだ分からない。あなたはその日会う一人に過ぎないのだ。彼らはあなたの言うことを努めて理解しようとはしない。だから、あなたを理解してもらう負担をかけさせられないのだ。

私はこの論争が過ぎ去るままにしようとも思った。だがその時、そもそも自分がなぜそのインタビューで喋ったのかを思い出した。それは創業者を助けるためだ(私はそうインタビューで言ったのだが、それは公開版からカットされてしまった)。それこそ私が創業者たちに伝えたい重要なメッセージであり、私の言ったことを人々が誤解する危険は、創業者たちがそのインタビューのパロディー版を読むだけに留まらず、元のメッセージが失われてしまうことにも及ぶ。

二三年前に中央ヨーロッパで開催された何かの起業家養成プログラムである女性と話したことがある。彼女は、Y Combinator に人々が応募するための準備に自分が何ができるか尋ねた。彼女は自分がスタートアップに教えられる方法を言ってほしいのだと私は考えたが、他のところでも書いたように、スタートアップについて学ぶには、スタートアップを始める(訳注:日本語訳)ことである。私は彼女に、彼女ができる一番重要なことは起業家たちが英語をうまく話せるようにすることだと言った。他の国からシリコンバレーに来たいと思っている創業者たちにそのメッセージが伝わる限りは、自分が叩かれようと私は構わない。訛りがあっても構わないが、自分の言うことを理解させることができないといけないのだ。

草稿に目を通してくれたサム・アルトマン、ケヴィン・ヘイル、キャロライン・レヴィ、ジェシカ・リヴィングストン、ジェフ・ラルストン、ギャリー・タンに感謝する。


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初出公開: 2013年09月02日、 最終更新日: 2013年09月04日
著者: Paul Graham
日本語訳: yomoyomo(ymgrtq at yamdas dot org)