yomoyomoの読書記録

2011年12月26日

アリアナ・ハフィントン『誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に堕ちる日』(阪急コミュニケーションズ) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 本書のことは冷泉彰彦氏の「アメリカは「第三世界に堕ちる」のか?」で知ったのだが、江坂健さんに献本いただいた。

 読んでいて何とも憂鬱になる本だった。この本は「第三世界アメリカ」という嫌な感じの言葉を最初に掲げ、アメリカは富めるものと貧しいその他大勢が二極化する第三世界のような国になるぞと訴える警告の書である。本書が憂うのはアメリカにおける中流層は「絶滅危惧種」になろうとしている現実である。

 多くのアメリカ人は親の世代よりも貧しい、下層に生まれながら上にのし上がれるアメリカ人は少数、といった話は日本でも言われる話だが、本書がターゲットとする「安定した職を持っていた人、大学卒の学歴を持っている人、税金をきちんと払い、老後のために貯金し」ていた中流層が80年代以降ずっと痛めつけられ、そして2008年に金融危機以降もうこらえきれなくなり雪崩をうつように転落する様、かつての中流はもはや「新貧困層(ニュー・プア)」に転落しつつあるという実態を、著者は具体的な数字をビシバシ上げながら読者に叩きつける。ヘタレなワタシは、本書を読んで失業が一層怖くなった。

 本書が上に挙げたまっとうな人たち、つまり中流層をターゲットにしているのは戦略的に重要で、アメリカが凋落し、もう偉大な時代は戻ってこず、当然職も戻ってこないという失うものが大きい不安に大変アピールしている。例えば、人気アニメ『ザ・シンプソンズ』のように働き手が父親(原発の安全管理官というのが日本人から見ると皮肉なのだが)だけで5人の家族を養うなんて、現在のアメリカ中流家庭にとっては夢のような暮らしなのだ。貧困に落ちていく個々の事例の話だけでなく、アメリカの各種インフラがもはやボロボロだというデータを積み上げる第3章も地味に怖い。

 アメリカは、まだ23歳のつもりでいる中年男のようだ。鏡に映る顔のしわや薄くなった頭髪を見ないようにしている。ひざの調子もよくない。動脈は詰まりかけていて、いつ心臓発作を起こしてもおかしくない。私たちは今でもアメリカを若い国と思いがちだが、もうそんな時代は過ぎた。(115-116ページ)

 ワタシが本書を読んで思い出すのは「一億総中流」という言葉である。日本人の意識を指すその言葉がメディアに乗るとき、どこか不満な調子を孕むのが個人的には理解できなかった。だって我々皆が金持ちになれないことぐらいガキにも分かる。ならば、国民の大半が自分のことを中流と感じられる社会のどこが悪いのか。正直、ワタシは今でもそう思っている。しかし、メディアでその言葉を使ってた大新聞の記者に限らず、それを本当に不愉快に思っている人がいるのを後に知ることとなる。

 著者が敵視し指弾するのは、カジノ資本主義を可能にしているワシントンの機能していない議会や政府官僚機構、そして何よりそのワシントンと太いパイプを持つウォール街の大銀行など金融機関、そうした意味で本書は Occupy Wall Street 運動との親和性を当然感じるし、第4章においてアメリカを第三世界にしないための方策として預金の移し変えといった草の根の運動やローレンス・レッシグの腐敗研究、Fix Congress First を挙げているのは予想通りだった。

 そして著者が挙げるのは、ティム・オライリーのガバメント2.0、プラットフォームとしての政府論だが、著者自身 Huffington Post の創始者だが、ネット! ネット! と言い立てる感じは特になく、当たり前の手段として賛同できる運動を紹介している感じだった。

 最終的には著者はアメリカには立ち直る力がある、という楽観的な論調をとる。冷泉彰彦氏も指摘するように膨大な若年人口を持つ強みは大きい。落ち着いた目で見ると、著者が挙げる数字や問題も、それ中流層の話じゃないんじゃ? というものもあるのだが、アメリカ建て直しのために、(上記インフラ問題と絡めた)公共工事による国内雇用の創出を訴えながら、一層の移民の必要性を訴えるところは、著者の出自からして当たり前だけどらしい感じがする。一方で著者の目はとにかくアメリカ国内に向いていて、国際政治における立ち位置とかほとんど考慮されない。これはやはり他の国に構ってる場合じゃない、という危機感の表れなのだろう。

 そうした意味で本書に閉じた印象があるが、ただ日本でも野田首相は分厚い中間層のいる国をもう一度作りたいと言いながらそれにつながる政策を一つでも提唱したのか甚だ疑問な現状を見るにつけ、我々が今「理性の時代」でなく「共感の時代」におり、政治家に自分たちが望む政策以外の選択肢以外にとる余地を与えない状況を作り出す重要性を最後に訴える本書の内容は日本にいる我々も得るところが多いのは確かだろう。


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