yomoyomoの読書記録

2013年03月28日

東野圭吾『ブルータスの心臓』(光文社文庫) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 東野圭吾の本は、彼の大ファンである女友達が貸してくれた文庫本を読ませてもらっているのだが、本書は彼女が一番のお勧めに挙げていたものである。

 貧しい出自の上昇志向の強い主人公男性が逆玉でのしあがるチャンスを掴みかけるものの、ズルズルと肉体関係を続けていた女性が妊娠し、彼女の存在が邪魔になり殺害を画策するという話は、日本の小説では石川達三の『青春の蹉跌』を容易に連想させるものだが、もちろんそのままの構図に収まるわけはなく、その殺人計画からして予想もいかない方向に進み、それが破綻すると、一体誰が犯人なのか、次に狙われるのは誰かと興味が途切れない。こういった読者を離さない展開はこの著者らしいですな。機内で一気に読みました。

 本作の場合、主人公はもちろん、登場人物にほとんど人間的に共感できる人物がいないところに好き嫌いが分かれそうだが、個人的にはそこがフックになってよかった。が、その割にはラストがちょっとあっさりした感じだったかもしれない。

 本筋とは関係ないが、本作を読んで少し違和感があったのが、女性が宿した子供の父親が誰かというポイントについて、血液型でのみ判断しているところ。もちろん組み合わせ的に分かればよいのだが、これが書かれた頃は DNA 鑑定なかったのかね? と思ったが、これは1989年に書かれた小説なのね。

 そういう意味では、今は当時よりもずっと監視社会の度を強めていて、N システムなどを考えると本作における「リレー」のトリックは現在では下手すれば端から成立しない可能性もある。

 恋愛小説における「携帯が恋人たちのすれちがいをなくしてしまった」問題はよく言われるが、監視社会におけるミステリーのアリバイ工作問題というのもその筋では問題になってるのだろうか。


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