yomoyomoの読書記録

2010年08月23日

あんどうやすし『Google Wave 入門 サービス概要、APIからオープンソースWaveサーバーまで――リアルタイムWebの最前線』(日経BP社) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 日経BPの高畠さんから献本いただいた。

 本書は昨年2009年5月28日の Google I/O 2日目における著者が目の当たりにした Google Wave 発表の現場の話から始まる。デザインが少し垢抜けないGMail? という軽い失望の空気は、キーノートが進むにつれ興奮に変わり、最後には総立ちと熱烈な拍手という熱狂状態に包まれた様子が書かれている。

 確かにこのときの熱狂的な反応はすごかった。マイクロソフトが満を持して鳴り物入りで発表した検索サービス Bing の話題を吹っ飛ばしたくらいである。

 しかし……ご存知のように今年の8月初旬、Google Wave の開発停止が発表された。それは「ネット上のコラボレーションを根本から再定義する」という Google の目標が挫折したというだけでなく、本書の発売を間近に控えた著者悲しみのズンドコに叩き落すこととなった。

 そういうわけで『Google Wave入門』だが、Google Wave は何かという話に始まり、Google Wave を構成するプロダクト、プラットフォーム、プロトコルという「3つのP」について解説する構成をとっており、結構余白が多そうな見た目から受ける印象と異なり、文章による解説も実際のソースコード例もちゃんと入った充実した内容になっている。

 しかし……本書を読んでまず思うのは、「やっぱりこれはフクザツ過ぎるよ」という感想である。

 これは開発中止発表後だからなおさらそう思うのかもしれないが、大体ね、GMail+GTalk+Google Docs+iGoogle といったサービスが、GMail と同程度にシンプルなインタフェースにおさまってるって、いやいや、おさまってないって! シンプルじゃないって。

 どうしても後だしジャンケンな意見になってしまうが、最初はもっと機能を絞って、ユーザからのフィードバックを受けて改良にフォーカスすべきだったろう。メッセージのやりとりでコミュニケーションを表すのでなく、コミュニケーションそのものを表す wave というオブジェクトにユーザを慣れ理解させることに集中すべきだったろう。そして、ユーザがどのように Google Wave を利用し、どのようなコミュニティが形成されるのかを注意して観察すべきだった。

 あと「プラットフォーム」の章で解説される API とか他の Google サービスの情報を引っ張る最小限のものだけあればよかったのではないか。ちょうど ReadWriteWeb に API プロバイダがおかしがちが10の間違いという記事があがっているが、結構あてはまってるように思う。

 本書に対してではなく Google Wave の問題を今更書き連ねてしまったが、こうなった以上問題は「プロトコル」がどの程度どの程度開放され、オープンソース化されるかに個人的には一番興味がある。

 しかし……本書の第5章を読むと、Google Wave プロトコルは、クライアントと wave サーバーの間のクライアントサーバープロトコルだけでなく、サーバーと wave プロバイダの間の「連合プロトコル」、プロバイダとロボットの間の「ロボットワイヤプロトコル」というのもあり、ちょっと難しいかもと不安になる。こうなってみると、「Google Waveは『反ウェブ的』だ」と言ったレイ・オジーは正しかったのだろうかと考えてしまう(いずれにしてもこの第5章は後でまた読み直すだろう)。

 まぁ、先の話はワタシにはなんとも言えない。Google Wave の志の高さを考えると、Google の手を離れることで新たな展開があることを期待したい。そうなったとき、本書は再び読み直される日が来るはずだ。


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