yomoyomoの読書記録

2010年11月01日

水木しげる『水木しげる 怪奇 貸本名作選 不死鳥を飼う男・猫又』(ホーム社漫画文庫) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 『水木しげる 恐怖 貸本名作選 墓をほる男・手袋の怪』と同時に買った本だが、二冊のうちではこちらのほうが好きである。

 「不死鳥を飼う男」など単に設定で面白がらせるだけでなく、途中に入る神主さんの話が奥行きをもたらしているし、荒唐無稽な「サイボーグ」にしても、いかにも図式的なのだけど何よりサイボーグになる男のビジュアルが強烈極まりなくて、あんな姿になった主人公を実家に帰すわけないじゃないかというのも忘れてしまうくらい。奇想とペーソスの両方がある「ねずみ町三番地」、水晶球について下手にオチがつかないところがよい「水晶球の世界」など力作揃いである。「猫又」もシンプルな話なのだけど、男が猫に支配されてしまった後のカットがあまりに怖くて思わず本を取り落としてしまったくらいだ。

 こういう妖怪メインであったり戦記ものでない水木しげるの漫画を読むと、彼の弱点も見えてくる。それは美女を描けないことで、それを描こうとすると下手な少女漫画のようだったり、きょとんとした感じになってしまう。「ゲゲゲの女房」にも生活のために少女漫画を描かなくてはならず苦労する話があったが、相当苦労したのだろうな。

 それを考えると、「ゲゲゲの女房」は、杉浦太陽がねずみ男、梶原善が本書にも登場するメガネをかけた出っ歯の男(桜井昌一がモデルらしい)を物語の中でうまく再現していたが、水木しげるに描けないタイプの松下奈緒が主人公を演じていたのが成功のポイントだったのかもしれない。

 ただ「群衆の中に」は、理不尽にひどい目にあうメガネをかけた出っ歯の男ときょとんとした感じの謎の女性の組み合わせがよい感じだった。


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