yomoyomoの読書記録

2007年08月06日

綿矢りさ『蹴りたい背中』(河出文庫) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 何を今更と言われそうだが、以前『新教養主義宣言』の文庫本を立ち読みしようと(買えよ)本屋で河出の棚に出向いたら、綿矢りさの芥川賞受賞作が文庫落ちしており、買っておいたのだ。

 一読して、これは確かに間違いなく才能だと思った。ワタシは未読の本についての批評はなるだけ読まないようにしているので、へぇ、「蹴りたい背中」ってこんな非コミュマインド全開な作品だったんだ、と少し意表を突かれた感じがしたが、何より主人公とにな川のクラスでの孤立加減、この二人のもちろん恋愛小説にも単純な青春小説にも還元しえない関係性の描写が達者で、ダレずに読み通すことができた。

 本書を読んで、これがいまどきの女子高生のリアルさとはビタイチ思わないが、そういうのとは関係ないところまで引き上げていると言えるだろう。「"人間の趣味がいい"って、最高に悪趣味じゃない?(p.124)」、「あんたの目、いつも鋭そうに光ってるのに、本当は何にも見えてないんだね。一つだけ言っておく。私たちは先生を、好きだよ。あんたより、ずっと(p.107)」といった主人公以外の言葉にはっとしたりした。

 ご存知のように著者は本作品で最年少の芥川賞作家になった。それについていろいろ言われたが、例えばこないだその選考委員に加わった川上弘美と小川洋子の芥川賞受賞作と比べてみれば、「蛇を踏む」にはかなり及ばないが、「妊娠カレンダー」とは良い勝負、もしかしたら本作品の上かもしれない。別におかしなことじゃない。

 あとまったくの余談だが、本書を読んでワタシがあっと思ったことが一つあり、それは「つっかけ」という言葉が方言でなかったということ。

 何だそれと言われそうだが、ワタシが子供の頃から「つっかけ」という単語を、その響きのせせこましさから、てっきりワタシの住んでいた地方の方言ではないかと思っていた。それが本書で何度もこの単語が出てくるのにはっとしたというわけだ。標準語だと思って使った言葉が方言だった、というのはよくある話だが、その逆バージョンははじめてかもしれない。


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