yomoyomoの読書記録

2010年04月26日

ヴァーツラフ・クラウス『「環境主義」は本当に正しいか? チェコ大統領が温暖化論争に警告する』(日経BP社) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 日経BP社の竹内さんから献本いただいた。

 本書は最初のほうで、「本書は引用がかなり多く、オリジナルな研究とはいえない。また内容も、自然科学の素人の知識にすぎないものだ」と宣言される。確かに本書の主張はビョルン・ロンボルグやジュリアン・サイモンに依るところが多い。著者はそれに続けてこう書く。「しかし、私はそのことをハンディキャップとはとらえていない。地球温暖化の問題は、自然科学より社会科学、気候学より経済学に、はるかに関連しているからだ(11-12ページ)」

 本書は題名通り、「その結果がどうなるかなどおかまいなしに、人間の生命を犠牲にし、個人の自由を厳しく制限することで、世界を根本的に変えようとする運動(18ページ)」と規定される環境主義の正当性を問い、厳しく批判するものである。

 環境主義批判自体は最近では珍しいものではないが、本書を際立たせているのは、環境主義を社会主義、共産主義になぞらえているところで、著者の筆致は(かつて共産圏に属し、自由を奪われた経歴もあってか)苛烈であり迫力がある。

環境主義者も同じように崇高なスローガンのもとに、人間より自然にたいする不安を表明しながら(彼らの「自然を第一に考えよ!」という過激な標語を思い出せばいい)社会主義者と同じことをやっているのである。(26ページ)

 誇大妄想狂の人間の抱く野心、うぬぼれ、そして謙遜さの欠如の末路は、かならず惨めな結果になってしまうことは、共産主義が証明してみせている。(中略)環境主義者も結局、共産主義者と同じ末路を迎えることになるだろう。(132-133ページ)

 ワタシ自身、本書に書かれるような環境主義については批判的だし、「環境主義者は自由を束縛したがる」という本書の内容には同意するところが多い。例えば、当然ながらというべきか本書では京都議定書の内容も批判されている。

重要な事実は、京都議定書ではエネルギーの利用を三分の一まで減らすべきだと述べられているが、それは二〇五〇年までに0.05℃しか温度を下げられないことである。(91ページ)

 本書の内容から離れるが、ワタシは以前から「京都議定書」という名前自体がガンなのかなと思っている。「京都議定書」と聞くだけで、日本人である我々はそれに反した主張をすることに道徳的な後ろめたさを感じてしまうのではないかとワタシは睨んでいる。大体、上に引用するような費用対効果を考えたことがある人は少ないのではないか。これが正しいとして、やはり京都議定書の内容を支持するだろうか。

 それでは何をすべきかという問いに対し、「この(中略)質問にたいする、第一の、しかも唯一筋の通った答えは「何もしない」(もっと正確にいえば「特別なことは何もしない」)ことである(132ページ)」と書く点において彼と、環境への取り組みによるイノベーションを期待するワタシの立場にははっきり距離がある。また、本書の主張の立脚点となっている環境クズネッツ曲線の扱いについてもワタシは疑問を抱いた。

 それでも、環境主義優勢の時流に抗してその主張を参考文献をきちんと示した本にまとめる能力をもった大統領がいるチェコを、何の定見もなしに二酸化炭素を2020年までに1990年比で25%削減するとぶちあげ、国民に重い負担を強い、その経済活動に打撃を与えるであろう地球温暖化防止に関する法案の成立を急ぐ日本の首相と比べ、嘆息とともに羨ましく思わずにいられない。


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