yomoyomoの読書記録

2013年03月04日

鈴木謙介、長谷川裕、Life Crew『文化系トークラジオ Life のやり方』(TBSサービス) このエントリーを含むブックマーク

表紙

放送されたすべての回を聞いている数少ないラジオ番組文化系トークラジオ Life から生まれた二冊目の書籍である。

 番組が始まったのが2006年で、一冊目の書籍『文化系トークラジオLife』が出たのが2007年で、その当時ワタシもこの番組について Life Goes On という文章を書いているが、あれから5年以上経つのかと一人のリスナーとして感慨深いものがある。

 本書は第1部が「黒幕」長谷川裕プロデューサーのインタビュー、第2部が過去放送3回分のリミックス収録、そして第3部が番組のメインパーソナリティである鈴木謙介さんのインタビューという構成である。

 第1部の長谷川さんのインタビューでは、今から読むと微笑ましくもある番組の立ち上げ期に始まり、番組を作り上げることで同じ言葉が通じる仲間(Crew)を見つけられた喜び、そしてメインパーソナリティのメンタル悪化という番組最大の危機まで赤裸々に語られている。

 ワタシ自身は地方在住のため番組は TBS ラジオでなく主にポッドキャストで聞く形になるのだが、これまで上京時に何度もスタジオ観覧しており、そういえばとふと思い出したことがあった。

 あれは2009年2月だったと思うが、番組終了後Life in 博多について話をするため居残ったのだが、その打ち合わせ途中、鈴木謙介さんが当時の自分を巡る状況について愚痴とも不満ともつかない言葉を吐き出すように誰にともなく喋り出したことがあった。何しろ時間が時間であったためその内容はまったく覚えていないのだが、印象に残っているのは、そのように話し続ける鈴木さんの話にすべてに応えるでもなく、自身もパソコンで作業を続けつつ要所だけ言葉を返しつつ流していた長谷川さんだった。

 その不思議な感じを見ながら、この二人のコンビあっての Life なのだと半分寝ながら思ったものだが、その後2010年あたりはかなり大変だったようだ。思えばワタシは2009年はなぜか三度(!)もスタジオ観覧したのに、2010年はその機会が一度もなく、そのあたりを目にする機会がなかったのは幸運だったというべきか。

 しかし、その危機を速水健朗さんと斎藤哲也さんの二人のサポートで乗り切り、それが鈴木さんの「育休」時の臨時パーソナリティにつながる。実はその「育休」発表前に、速水さんと津田大介さんと飲んだときにその話を聞かされて仰天したことがあった。チャーリーが司会でない Life なんて! とワタシは狼狽したが、二人は割と落ち着いたもので、そういう Life Crew 力を試されるプロセスがあったからこそなのだと、今、復帰後のリフレッシュした鈴木さんの一皮剥けた司会ぶりを見るにつけ、思ったりする。

 本書の第2部は、その番組から3回分の模様をリミックス収録しているのだが、全回番組を聞いているワタシは当然記憶にあるのだけど、改めて読み返してみて笑えるし(特に澁谷知美氏と古市憲寿氏のやりとり)、こんなことを語っていたのだとはっとさせられるところもいくつもある。

 特に印象的なのは「信じる論理、信じさせる倫理」の回で、この回は何といってもタイトルを知ったときとても奇異に感じたのを覚えているし、占星術研究家の鏡リュウジ氏がゲストというのも異質さを感じた(これは単に当時ワタシが氏のことを知らなかったというのもある)。

 この回は言うまでもなく2011年3月11日に発生した東日本大震災に向かい合うものなのだが、実際この回を読み直してみると、当然放送を(ポッドキャストを)聞いていたはずなのに、こんな多様な話題を扱っていたのかと自分の不明さを恥じた。そして、これは表現を気をつけなければならないが、この番組についてのみ考えると、あの震災が鈴木謙介さんにポジティブな刺激を与えたのではないかとも感じた。ご本人が第3部のインタビューで語る、震災後半年の、非合理なものに寄り添う感覚は、その前年病んでいた自分とシンクロするところがあった、というのはそういうことなのかもしれない。

 長谷川さんは本書でプロの司会者を起用しない方針などを指して、「スーパースターのいないチーム作り」というのを語っていて、確かにその通りなのだけど、ワタシ自身何度かラジオに出演して痛感するのだが(知らない人もいると思うので書いておくと、ワタシも二度 Life の外伝で喋っていたりする)、Life のパーソナリティの方々は十分に喋れる人たちである。

 Life を聞いて、敷居が低い番組と甘く見る人は勘違いをしている。それだけ臨機応変に喋れる、頭のいい人たちが、それぞれの持分の話を持ち寄りながら、サッカーのごとく言葉のチームプレーをする、「専門家が素人に知識を伝授してやる」でもなく「素人が聞いてわからないものは悪である」にも倒れない、人材的にも話題的にも他のメディアに参照される存在を目指す志をもった番組なのである。

 放送においてそれを牽引するのが言うまでもなく鈴木謙介さんである。その司会ぶりの真骨頂は、あとがきで速水さんが書く鈴木さんの多重人格性にあるのだろうが、本書を読んで、「文化系トークラジオ Life」まとめWiki で番組の文字起こしをしていたのが実は鈴木さんだったという話を知り、その献身に心底驚かされた。ずっとワタシは自分が知る Life Crew の皆さんには好感をもってきたが、本書を読んで鈴木さんと長谷川さんことが一層好きになった。

 本書についての情報は、特設ブログができているので、そちらを参照されるのがよいだろう。


[著者名別一覧] [読観聴 Index] [TOPページ]


Copyright © 2004-2016 yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)