yomoyomoの読書記録

2016年11月16日

増井修『ロッキング・オン天国』(イースト・プレス) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 ワタシは1989年から2004年まで雑誌 rockin' on の読者で……と何度も書いてきて、ロック問はず語りなんてのもやっているが、先日帰省した際に実家の本棚を見直したら、実際には2006年くらいまでは結構な頻度で買っていたようだ。

 それはともかく、ワタシがもっともこの雑誌を真剣に、まさにむさぼり読んでいた時代に編集長だった増井修が当時を回顧する本を書いたとなれば、それは買うのが責務でしょう。

 のっけからボンベイ・ロールの話があったりして笑える。楽しく読ませてもらった。

 実際には本書の著者が rockin' on の編集長になったのは1990年からだが、ワタシが1989年に購読し始めた時点で、編集長は彼だと思っていた。逆に言うと、ワタシは渋谷陽一が編集長として一線におり、岩谷宏がバリバリ書いていた頃を知らないことになる。同人誌マインド残る頃のロッキング・オンの逸話として、明らかにおかしな人が3人も一緒に会社に何度も来襲し、しまいには社長室の前で服毒自殺を図るというとんでもないことをやらかし、警察の聴取で「おたくが出してるのは宗教の本ですか?」と聞かれた話など100点満点なエピソードもあったりする。

 著者は80年代までの rockin' on を、「ほとんど逆『ビッグ・トゥモロー』みたいな人生指南雑誌というか、極端なことを言っちゃうとたしかに宗教誌だった」と振り返るが、それを彼の編集体制の下、ガンバリズムで洋楽誌ナンバーワンの売れる雑誌にしていく過程が読めるのが本書ということになる。本書には当時の部数や利益など突っ込んだ記述があるが、現在の洋楽状況を知るものとして隔世の感があるとしか書きようがない。

 ワタシも中年になり、記憶力の低下に落ち込むことが多い昨今だが、上にも書いたように、この雑誌をむさぼり読んでいた時代のことは、それがワタシが高校大学時代だったこともあり、驚くほど鮮明に思い出せるのになんともいえない気持ちになる。

 本書にも、93年4月号のシュガーのインタビュー記事において、不手際で写真が欠落してしまい、ページ中央部にぽっかり空白ができてしまった話があるが、それはもちろんのこと、翌月の読者からの「その真っ白なキャンバスに自分を表現しろと解釈し、血だるまの馳浩を書いてみました!」みたいなお便りが掲載されてるのを読んで笑い転げたことまではっきり覚えていたよ。

 ワタシは以前から、本格的な渋谷陽一論が書かれるべきだと思っているのだが、本書はそれに応える本ではないし、それはもちろん問題ではない。「初期衝動」は渋谷陽一の造語とか(そうだったのか!)、1990年代初頭の中村とうようとの論争、というか喧嘩時には、渋谷陽一もかなり神経質になっていて増井修にマジ切れした話、あと渋谷陽一は強烈にアルフレッド・アドラー的な思想の人という分析は興味深かった。

 このように本書のことはとても楽しく読んだが、その中で著者が自身の栄光時代の頃から演繹する形で、今も活躍するロックミュージシャンについて、ぬるい湯加減な語りで論評するたびに、そのズレ加減というか、ロックに向き合う人としての著者の終わった人加減に一気に引き戻される。そうした意味で、今のワタシにはどうでもよい本だった。


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