yomoyomoの読書記録

2006年07月27日

白田秀彰『インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門』(ソフトバンククリエイティブ) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 本書は白田秀彰氏の Hotwired の人気連載を基に編まれたものであり、ワタシ自身本書の刊行をずっと待っていたのだが、ありがたいことにソフトバンククリエイティブの上林さんより献本いただいた。

 本書を読み始めてまず感じたのはその読みやすさである。何を今更と言われそうだが、当然 Hotwired の連載は新作文書が公開されるたびに読んでいたが、うまく消化しきれない回も多くもどかしく(そして自分の頭の悪さに情けなく)思っていた。上で「人気連載」と書いたが、思ったように読者の投稿が集まらず当初の目論見通りにならなかったことを著者自身認めており、もしかすると当方と同じように感じていた人は多いのかもしれない。そういう人たちにも本書をお勧めする。白田さんの連載は、縦書きの書籍として活字になるべきものだったのだ。

 著者は本書に関して「ライト・アカデミズム」という言葉を使っており、その軽い文体はもちろん読みやすさに貢献しているし、詳しくないことは詳しくないとはっきり書くところなどすっきりしている。ただオンライン連載そのままの終わり方や「(苦笑)」とかは書籍化にあたり直したほうがよかったのではとも思う。

 本書は全三章(+終章)からなるが、白眉は第一章「法の根っこを考える」である。人間がこれまで犯してきた数多くの失敗をどのように矯正してきたのかということの長い歴史の観察に基づく「社会の法則、人間の法則」としての法(law)について、「そろそろ「法」を真面目に考えても良い頃だ」と呼びかける必然を実感させてくれる。大陸法と英米法の考え方の違い、などといきなり書けば我々の現実生活と縁遠いお勉強な話に思えるかもしれないが、それが我々が現在インターネットで向かい合う問題につながっていることを読み解き、根本的な視点を見出す糸口を与えてくれる。

 第二章「権利をしっかり知っておく」においても、ヨーロッパ中世の紛争解決の手法をネットにおけるフレーミングの紛争解決につなげる手法は面白く、そこから「匿名の人々は、現実社会での法の機能を阻害することに加えて、ネットワークにおける紛争解決ルールの成長を阻害してしまう(p.92-93)」という匿名性の問題につなげられるとしっくりくる。

 第三章「これからの法と社会を模索する」はポリシー・ロンダリングという言葉を知ったときの興奮を思いださせてくれたものの、ここから終章にかけて駆け足というかいささか弱いのは残念。このあたりに著者の「突飛で、しかも根本主義的」な本質を感じさせる堅い文章ももう少し欲しかったし、最後はしっかり「法と慣習」の話に立ち戻って終わってほしかった。

 ……というのは贅沢な望みかもしれない。本書が「原理的かつ合理的に考える」助けとなる良書なのは確かである。


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