yomoyomoの読書記録

2011年01月11日

多根清史『ガンダムと日本人』(文春新書) このエントリーを含むブックマーク

表紙

 著者に献本いただいた。著者の本を読むのは『日本を変えた10大ゲーム機』に続いて二冊目だが、ガンダムも著者にとって大きなテーマなようだ。

 正直に書くと、特に考えなしに献本を受けてからこれはしまったと思った。ワタシ自身、小学生の頃『機動戦士ガンダム』を再放送でテレビで見た世代に属するが、個人的にはガンダムシリーズに特に強い思い入れはなく、人間や世相を語るのにやたらとガンダムを引き合いに出す人間が正直苦手だからだ。

 本書はガンダムと日本という国の歩みを重ねて語るなかなかガチな本である。ジオン軍のモデルがナチス・ドイツ軍、地球連邦のモデルが英米という通説に異を唱え、それぞれを「戦前の日本」と「戦後の日本」になぞらえるところまでもっていく第1章「ジオン公国と大東亜共栄圏」にはじまり、第2章ではザク、ガンダムといった兵器について太平洋戦争における日本軍の零戦、戦艦大和との親和性、非親和性を量産をキーに論じ、第3章「スペースコロニーと宇宙の夢」は第二次大戦後の冷戦期に起こった米ソの軍拡、宇宙競争とガンダムが生まれる背景となった社会状況を論じている。そうして第4章において、富野由悠季と小沢一郎という「二人のシャア」を論じ、特にガンダムの生みの親である富野由悠季の人生を語ることで第1章から第3章までの論が巻き戻される仕組みになっている。

 読む前はあんまり大上段に構えた本だったらイヤだなと思っていたが、上記の通りガチに語りながら納得させるものがあり(ワタシとしては第3章がもっとも好き)、論の進め方も丁寧だ。そういえば有名な「あんなのは飾りです」に始まる台詞が真面目に問い直されているところはちょっと驚いた。

 しかし……本書に小沢一郎論は必要だったのだろうか? それが本書のセールスポイントなのは分かるし、その前の章同様手際よく語られているのは確かだが、以下のくだりを読んで気持ちが冷めたのがあるからかもしれない。

 小沢もまた、「政治の父」といった角栄を裏切った。竹下登や金丸信とともに勉強会「創政会」を結成し、田中派から離脱して竹下派(経世会)に付いたのである。とはいえ、その後ロッキード事件で角栄が逮捕されると、小沢は約6年にわたる公判をすべて傍聴しているし、田中家=娘の田中真紀子とも親交が深い。(177ページ)

 創政会の立ち上げは1984年、田中角栄の逮捕は1976年、公判の開始は1977年ではなかったか。「小沢は約6年にわたる公判をすべて傍聴している」というのは、公判の開始から1983年に有罪判決がくだるまでを指しているのだろうが、いずれにしろすべて創政会の立ち上げ「より前」の話だ。「その後」ではない。ワタシの読み方や知識に間違いがあれば指摘していただきたいが、こんな基本中の基本の情報を間違うのはダメだろう。


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